1970年代初頭。高校2年生になって父が東京に転勤。仙台に残りたいと駄々を捏ねた挙句、仙台市五橋にある4畳半の個室で下宿開始。TVは不要。ステレオ装置とLPレコード盤があって、紅茶をポットでいただく天国のような生活が始まった。そのとき最初の頃に購入したチェンバロ(ハープシコード)のLPがこれ。アナログ録音のおかげでしょうか。めちゃめちゃ音が新鮮でした。 いまでもCD音源を保持して聴いています。 まずスカルラッティ。この人の父ちゃん(アレッサンドロ)がすごい。息子くん(ドメニコ)の方はバッハやヘンデルと同い年です。父ちゃんも息子くんも作曲家として名を馳せ、区別が面倒なので息子くんは名前を含めてドメニコ・スカルラッティって呼ばれますね。鍵盤の覇者っていうか、チェンバロの煌めきが飛び散り回る。冴え渡ったわざでこの音量の小さい鍵盤楽器が小宇宙のように部屋を駆け回ります。このあたりは同じチェンバロ曲であっても冷静なバッハ、分厚いハーモニーのヘンデルとちゃいます。 1970年代当初、最初の装置はツィーターがコーン型でグジュグジュ感満載でしたが、10年後PIONEER S-955のリボンツィーターがめちゃめちゃトランジェントのいい音で鳴らし、小宇宙が銀河くらいに広くなった。でも、リボンツィーターってサラサラしてるけど存在感がちょっと希薄で薄命の美女的な印象でした。そしてまた10年後のTannoy Canterbury 15キラキラ感はデュアルコンセントリックからもしっかり出ていましたが、弦楽器の魅力にチェンバロが今ひとつ冴えない。 そして2001年以降、JBL 2405の登場。このツィーターは一生の伴侶かっていうくらい。音がぶれない。10,000Hzから上の高音域が明確な映像を携えて耳に迫る。この圧倒的な世界を知ってしまったら他のツィーターは出番がない。あ、FOSTEX T900Aはのぞいて。(笑) このアルバム、最初の音が出た瞬間に50年前の下宿住まいの頃、未来への不安を感じたあのときのこころもとない自分を思い出すのです。